相続講座

相続の事前対策には2つの面があります。

一つ目は争族(家族で争う)対策です。
二つは相続税対策です。

一つ目の争族対策には、
(1)遺言書の作成、(2)分割用財産の確保、(3)生命共済の活用があります。

1.遺言書の作成

遺言とは、遺言者の意思表示だけで法的な効果を発生させる要式行為です。つまり、遺言者は誰にも拘束されず自由に意思表示できるのです。しかし、遺言の内容が法的に認められる内容でなければならず、また遺言が間違いなく遺言者の意思表示であると確認できる要式である必要があります。したがって、法的に有効な遺言の種類のうち、皆さんご承知の「自筆証書遺言」「公正証書遺言」を争族対策の観点から説明します。

自筆証書遺言

「自筆証書遺言」は、遺言者が自筆で作成するもので、日付も自筆することや押印は実印が望ましいことなどを留意しなければならない遺言です。なお、この自筆遺言書は、相続人が勝手に封印を破ることはできず、家庭裁判所の「検認」の手続きが必要です。また、苦労して争族対策を考えたうえで作成された自筆証書遺言が、相続人がその存在に気付かないまま遺産分割の争いをしてしまう恐れもあります。このデメリット対策として今年の7月10日から遺言書を法務局で保管する制度の運用が始まっています。

公正証書遺言

「公正証書遺言」は、公証人役場に依頼することによって、公証人によって作成されるもので、原本、正本、謄本を各々1部作成し、原本は公証人役場で保管し、正本と謄本は遺言者に交付されるものです。したがって、争族対策として有効な遺言です。つまり、争族を防ぐためには時間をかけて事前に子供たちに納得させておくためにも、適宜の時にこの「公正証書遺言」を見せることが可能だからです。また、この「公正証書遺言」は、状況の変化に応じて作成し直すことができますし、公証人が争族争いの一因となる「遺留分」等も考慮して作成することから、遺言者の死亡後に遺産分割協議書を作成する必要もなく、争族争いの芽を摘んでおく方法でもあります。

2.分割用財産の確保

分割用財産の確保では、まず現預金と不動産のバランスの問題になります。すなわち、争族にならないように事業用の不動産を分割することが可能であれば問題はないのですが、不動産を分割してしまうと金の卵を産む鶏を殺すような状況が考えられる場合には、代償として現預金で考えることとなります。しかし、この現預金は納税資金として流出することも考慮に入れておく必要があります。したがって、相続税対策にも関係しますが、分割用財産の確保の観点から現預金の確保にもなる事業用不動産の取得計画も事前に考慮することも重要です。なぜならば、融資を受けて事業用不動産を取得すると、不動産の相続評価が借入金(融資額)より大幅に低く評価されることになっているからです。このことは、現預金で取得することも同様の効果となります。

3.生命共済の活用

生命共済の活用は、容易な争族対策です。ただし、生命共済の契約者と被保険者は被相続人でなければなりませんし、掛金の支払も本人が支払っていなければなりません。争族対策として受取人を例えば長女とか、次男とかに指定しておけば立派な争族対策ができます。
争族争い事例で特別受益(特定の相続人だけが生前に特別な利益を受けている)の問題があり、分割にあたってこの特別受益を相続財産に組み入れるという「特別受益の持戻し」制度があります。しかし、この生命保険金が特別受益にあたるかどうかについては、「死亡保険金請求権は特別受益に当たらない」と最高裁判所の判例(平成16年10月29日)があり、社会通念上からみても多額な生命保険金を受け取っているのでなければ争いの争点にはなりません。したがって、ぜひこの「生命共済の活用」をお勧めします。

二つ目は相続税対策ですが、
(1)課税価格を減らす、(2)みなし相続財産の活用、(3)暦年贈与の活用、について説明します。

1.課税価格を減らす

課税価格とは、亡くなった方の財産(不動産や現預金など)から債務(借入金や葬儀費用など)を差し引いたものです。したがって、この「課税価格を減らす」とは、「財産を減少させるか、債務を増やすこと」ですが、財産を隠すようなことは厳禁で、相続税法という法律に則ったものであることは言うまでもありません。また、税法ではこの課税価格を減額する特例もあります。すなわち、自宅や事業用宅地(貸付事業用含む)を軽減する制度です。さらに税額の軽減では、配偶者に対する税額の軽減制度もあります。相続税対策としては、これらを総合的に判断する必要があります。
相続税法にしたがって財産を減らし、債務を増やすオーソドックスな対策を紹介する前に、相続税法における土地の評価について説明しますと、基本は「客観的な交換価値である時価」となっています。しかし、財産を取得した相続人が個々の土地ごとに時価を求めることは困難です。したがって、相続税法や国税庁の定める評価の取扱によることとなり、概ね時価の8割程度での評価が認められています。時価1億円の土地であれば8千万円の評価ということです。さらに、賃貸事業用の土地は、貸地や貸家建付地として評価減することができます。その土地の上にある建物についても借家権相当の評価減することができます。この結果、借入金や現預金で賃貸事業用の不動産を取得すると、借入金は債務として100%認められるのに対し、不動産の評価は個別の案件にもよりますが60%以下での評価となり、40%以上の課税価格を税法に基づいて減らすことができます。

2.みなし相続財産の活用

みなし相続財産とは、「みなし」という言葉のとおり、本来、死亡した方の財産ではないが相続財産とみなして相続税の対象とするものです。例えば故人が、生前に相続人に対して金銭を贈与し、相続人が自己の名義で預金していた場合、贈与税申告の有無にかかわらず、その預金は既に故人の財産ではないはずです。しかし3年以内の贈与贈与については、相続財産とみなします。
また、故人が、自らを被保険者とする生命保険の契約者となり、その保険料を自ら支払い、保険受取人を相続人としていた場合は、その生命保険は保険受取人の固有の財産(最高裁昭和40年2月2日判例) であり、個人の遺産分割の対象にならない(保険受取人が故人自身の場合は分割の対象財産となります)のですが、これも相続財産とみなします。ただし、この生命保険については500万×法定相続人で計算した金額を非課税としています。したがって、この生命共済の活用は、誰でも実現可能な相続税対策といえます。

3.暦年贈与の活用

暦年贈与の活用も、110万円という贈与税の非課税枠を活用した容易な相続税対策です。ただし、留意すべき点があり、贈与したと称しながらその預金通帳や印鑑を故人が管理していたような場合には、相続税の対象になってしまうということです。また、本来は個人と相続人の間での贈与契約書が作成されているかどうかが贈与であるか否かの判断材料ですから、お勧めするのは、120万円の贈与として、120万-110万(非課税)=10万円、10万円×贈与税率10%=1万円の贈与申告書を提出しておくことがよいと思います。つまり、この贈与申告書を提出しておくことにより、贈与の事実を国税が証明することにつながるからです。なお、国税の贈与に関する調査・時効期間は6年間となっています。
贈与による相続税対策には、この暦年課税のほかに、

➀相続時精算課税制度
➁配偶者への居住用不動産又はその取得のための金銭の贈与に係る非課税制度
➂教育資金の一括贈与に係る非課税制度
④結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税制度
⑤父母等からの住宅取得資金の贈与に係る非課税制度

の活用もあります。

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